2024私立大学医学部入試の難易度はどうだった?

医学部特訓塾代表の本田です。2024年の春の入試状況を振り返ります。

目次[非表示]

  1. 1.私立医学部の受験状況
    1. 1.1.ほとんどの私立大学医学部が志願者数を増加させた。
    2. 1.2.志願者数が減少した6校
    3. 1.3.特に志願者数が増加した私立大学医学部4選
      1. 1.3.1.獨協医科大学
      2. 1.3.2.聖マリアンナ医科大学
      3. 1.3.3.近畿大学医学部
      4. 1.3.4.東北医科薬科大学(1700人台で安定していたのに急に2000人越え)
  2. 2.私立大学医学部の出題傾向
    1. 2.1.コロナ禍以降の易化傾向は続いた
    2. 2.2.物理が難化したことの意味
    3. 2.3.医学部入試は情報戦であることが分かる事例

私立医学部の受験状況

ほとんどの私立大学医学部が志願者数を増加させた。

 大手予備校の河合塾が、公開模擬試験に予備校単位で参加している予備校に毎年送ってくれる「ガイドライン」に書かれているデータによると,2024年の私立大学医学部の志願者数は,全体で昨年比114%と大幅な増加を示し,ほとんどの私立大学医学部が志願者数を増やしました。


志願者数が減少した6校

 私達が調べた限りでは,志願者数が減少したのは6校のみです。

一次試験日

大学名

特記事項

1/21

川崎医科大学

獨協医科大学1日目と入試日程が被りました

1/26

北里大学医学部

帝京大学医学部の2日目と被りました

2/2

昭和大学医学部

この日は4校被り。全大学で減少

2/2

埼玉医科大学

この日は4校被り。全大学で減少

2/2

東海大学医学部

この日は4校被り。全大学で減少

2/2

福岡大学

この日は4校被り。全大学で減少



特に志願者数が増加した私立大学医学部4選

獨協医科大学

1つ目は,獨協医科大学です。昨年の志願者2250名が,今年は3166名と大幅に志願者数を増やしました。実は,獨協医科大学は,2023年入試では2022年入試と比べ1000名近く減少しておりました。これは獨協医科大学の1日目と帝京大学医学部の3日目が重なっていた影響が大きかったと思われます。2024年入試では,川崎医科大学と日程が重なっておりました。偏差値のランキングでは獨協医科大学と川崎医科大学では比較的近いため、同じようなランキングの受験生の層が重なるのではないかと思われましたが,それ以上に岡山と関東という地理的な距離の影響が大きく,志願者数を減少させる要因にならなかったのだと考えられます。
実際に医学部特訓塾では,現行の医学部入試の中では川崎医科大学はもっとも偏差値のランキングが低いため,受験校選定の指導を行う際には,かなり頑張って川崎医科大学の受験を勧めるのですが,実際に川崎医科大学を受験してくれるのはほんの数名にとどまってしまうことからも,関東圏の受験生には岡山はとても遠く感じられてしまうのでしょう。また,学費の高さも私立大学医学部ではトップクラスであることから,敬遠されてしまうのだと思われます。


聖マリアンナ医科大学

次に聖マリアンナ医科大学も,2023年の2354名から,今年度は3210名と大きく志願者数を増加させました。昨年は愛知医科大学と入試日程が重なっておりましたが,今年は入試日程が単独となった影響があると思われます。


近畿大学医学部

近畿大学医学部は,昨年の1522名から1994名と大幅に志願者数を増やしました。2024年入試から他学部との共通問題が出題されることになり,問題が平易になり解きやすくなるだろうと受験生が予想したのではないかと考えられます。
実際には共通問題の数学の難易度が上がってしまっていたようなので,問題が易化するだろうと期待して近畿大学医学部に出願した受験生にとっては期待外れにないってしまったようですね。


東北医科薬科大学(1700人台で安定していたのに急に2000人越え)

東北医科薬科大学も大幅に志願者数を増加させました。ここ数年,1700人台で安定していた志願者数が2024年入試では突然,志願者数が2000人を超えてしまいました。東北医科薬科大学は,2年連続単独日程だったので,何故急に志願者数を増やしたのかの原因は大きな謎です。


私立大学医学部の出題傾向


コロナ禍以降の易化傾向は続いた

2020年に始まったコロナ禍により,2020年、2021年は緊急事態宣言が発令され,ほとんどの高等学校の授業は「オンライン授業」に置き換わり,さらに「分散登校」が実施され,授業時間も大幅に減少させるなど,学校教育の現場は大混乱となりました。
そして2021年,2022年の入試では,それまで難化傾向にあった私立大学医学部の入試では,問題の難易度が急激に下がりました。これは,満足に学校教育を受けられなかった現役受験生が浪人生に比べて不利にならないように,との大学側の配慮から問題の難易度が下がったのだと考えられていました。
続く2023 年の入試でも医学部の入試問題の難易度が前年同様に易化したままだったことから,高校2年生の時にコロナ禍を迎え,基礎学力を十分に身に付けることができなかった現役生への配慮が続いているのだろうと考えられてきました。
そして2024年の入学試験でも易化傾向が続くのか?それともコロナの「5類への移行」もあったので,易化傾向が終わり元の難易度に戻るのではないか?という考えもありましたが,実際には英語を始めとして全体的には易化傾向は続いております。


物理が難化したことの意味

その一方で,今年度の医学部入試では多くの大学で,「物理が難化した」と言われております。実際に試験場から帰ってきた塾生達も口々に物理が難化したと言っておりました。これには意味があり,それを説明いたします。
2018年に発覚した東京医科大学の不正入試事件を発端とする一連の医学部不正入試問題文部科学省からの医学部入試厳正化の要請もあり,一般入試においては,男子学生を作為的に有利にしたり,多浪生を作為的に不利にすることが出来なくなりました。そこで,一部の大学などでそれ以前から行われていた「合法的男子優遇入試」を模倣して物理の難易度を下げて生物受験生よりも物理受験生が有利になるようにするという動きが始まりました。実際に2019年あたりから物理の問題が急激に易化し始めております。
物理を易化させると何故男子受験生が有利になるかというと,生物選択者と物理選択者を比べると,明らかに物理選択者の方が男子の比率が高く,物理を易化させることで高得点をとる男子生徒が増え,男子の合格者の割合が高くなるからです。
つまり,物理の問題を易しくすると合法的に男子を優遇することになります。
一方で,大学の教育現場では,生物未修で大学に入学してくる生徒が,生物の基礎学力が無い状態で生物学の基礎学力があることが前提となっている医学部の授業を受けることになるため,現場として大きな問題になっていたのだと思われます。また女性医師が活躍する現状や,性差による区別をすること自体に意味を見い出さなくなってきた社会変化の流れもあり,「合法的男子優遇入試」が終わり始めたのではないかと考えられます。
だから,2024年の入試では物理を意図的に易化させる入試のあり方に変化が生じはじめ,適切な難易度に戻したことにより,「物理が難化した」ということにつながったのだと思われます。


医学部入試は情報戦であることが分かる事例

最後に蛇足になりますが,今年の入試問題で面白い現象がありました。
なんと,今年(2024年)の帝京大学医学部の1日目の化学の入学試験問題で,第1問が1998年の京都大学前期日程の第2問で使用された問題がそっくりそのまま出題されておりました。帝京大学は問題が持ち帰れないため,受験直後に塾に戻ってくる生徒と話をして詳細を聞き取り調査している中で,「その問題はもしかして…」と思い,生徒に京都大学の問題を見せたところ,「全く同じです」と言われました。大学入試は他大学で出題された問題を使用することが一定限の条件を満たせば認められているため,このような現象が起きたのだと思います。こういった情報に予備校が気付けるということは,その予備校の持っている能力です。
医特塾には,東京大学の理科Ⅲ類や京都大学医学部を志望する生徒は在籍したことはありませんが,東京大学や京都大学がどのような入試問題を出題しているかを分析しておくことは,数年後の入試問題の流行を占う上では必須条件です。これまでも入試における新分野や新たな典型問題となる問題を両校は出題してきました。だから私も長年,東京大学や京都大学の入試問題の分析を続けております。こういった実を結びそうにない努力を何年にもわたって続けることが,目に見えない情報戦に勝つ秘訣なのかもしれません。
最後はちょっと自慢話が入ってしまいましたね。昨日今日出来たばかりの予備校とはノウハウが違うんだという矜持を胸に日々頑張っております(笑)。



本田 哲生
本田 哲生
医学部特訓塾代表。化学科講師。東京大学教育学部卒業。東京大学理科二類に在籍中の1992年から,杉並区阿佐ヶ谷の地で大学受験の専門塾を設立。30年以上,大学受験の指導を続けている。どうしようもないダメな生徒を自宅に下宿させ国立大学医学部に合格させたことを契機に,医学部受験指導を開始,医学部受験指導も23年に及ぶ。2008年に小柏先生と共に医学部特訓塾を立ち上げ現在に至る。医学部特訓塾代表であり,同時に現場に立ち続ける化学講師でもある。

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